遊びと教材選びから始める!小学校でのジェンダーにとらわれないクラス作りのヒント
「男の子だから」「女の子だから」という言葉を意識せずに使ってしまったり、無意識のうちにジェンダーに関する固定観念を子どもたちに伝えてしまったりすることはありませんか。日々の授業や準備で多忙な先生方にとって、ジェンダーインクルーシブ教育をどのように実践すれば良いか、具体的なイメージが湧きにくいかもしれません。
この記事では、小学校教員の皆さんが、毎日の「遊び」や「教材選び」を通して、子どもたちが性別にとらわれずに自分らしく成長できるクラスを作るための具体的なヒントと実践アイデアを提供します。明日からすぐに授業に取り入れられる内容ばかりですので、ぜひ参考にしてみてください。
そもそも「ジェンダーバイアス」とは?子どもにどう伝えるか
ジェンダーインクルーシブ教育を考える上で、まず知っておきたいのが「ジェンダーバイアス」という言葉です。
- ジェンダーバイアスとは?
- 「男の子はこうあるべき」「女の子はこうあるべき」といった、性別に基づく決めつけや偏見のことを指します。例えば、「男の子だから泣いてはいけない」「女の子だから理系は苦手」といった考え方がこれに当たります。これは、生まれつきの性別(セックス)とは異なり、社会や文化の中で作られた性別の役割(ジェンダー)に関するものです。
- 子どもに伝える際のポイント
- 子どもたちに直接「ジェンダーバイアス」という言葉を使う必要はありません。「男の子も女の子も、好きなことや得意なことは人それぞれ違うよね」「『こうあるべき』という決まりはないんだよ」と、多様性を肯定する言葉で伝えていくことが大切です。身近な例を挙げながら、「あの人の好きなことは何だろう?」「どんな気持ちでいるかな?」と想像する機会を増やすことで、他者の多様なあり方を自然と受け入れられるようになります。
すぐにできる!遊びの場面での実践アイデア
子どもたちが最も自由に自分を表現する「遊び」の時間は、ジェンダーにとらわれない視点を育む絶好の機会です。
1. おもちゃ・遊具の選び方と配置の工夫
特定の性別に限定されがちな遊びから子どもたちを解放し、多様な興味を引き出しましょう。
- 多様なおもちゃの導入:
- 従来の「男の子向け」「女の子向け」といった区別をなくし、ブロック、おままごとセット、科学実験キット、ドールハウス、工作材料、ボードゲームなど、あらゆる種類のおもちゃを平等に配置します。
- 実践例:
- ブロックコーナーの隣におままごとセットを置く。
- 工具セットと裁縫セットを同じ棚に並べる。
- 外遊びのボールだけでなく、縄跳びやフリスビーなど、様々な運動遊びができる道具を準備する。
- 配置のポイント:
- 「これは男子の場所」「これは女子の場所」と無意識に分けてしまわないよう、自由に手が届く場所に置くことが重要です。
2. 遊びへの声かけ:役割の固定化を防ぐ
先生の声かけ一つで、子どもたちの遊びは大きく広がります。
- 性別を限定しない言葉がけ:
- 「お料理は女の子がやるもの」といった固定観念を助長する言葉は避け、「〇〇ちゃん、どんなお料理作るの?」「〇〇くん、お人形さんのお世話上手だね」のように、子どもの行動や興味そのものに焦点を当てて褒めたり、質問したりします。
- 実践例:
- おままごとをしている男子児童に「シェフみたいだね!何を作っているの?」と声をかける。
- 工作をしている女子児童に「すごい!何ができ上がるか楽しみだね」と、性別ではなく活動内容に注目する。
- 多様な役割を促す:
- 鬼ごっこの鬼、グループ活動のリーダー、係活動の担当など、特定の性別に役割が偏らないよう、意識的に声かけや働きかけを行います。
- 実践例:
- 「今日は〇〇さんと〇〇さんで、この片付けを一緒にやってみようか」と、性別ではなく協力関係に注目して促す。
- 「新しい係のアイデア、男の子も女の子も、みんなで考えてみよう」と、全員に発言の機会があることを伝える。
授業で活用!教材選びと表現の工夫
授業で使う教材や教室の環境も、子どもたちのジェンダー観を形成する上で大きな影響を与えます。
1. 教材(教科書・資料)の読み解き:多様な視点から
既存の教材の中に潜むジェンダーバイアスに気づき、補足説明や問いかけでバランスを取ることが可能です。
- 登場人物の性別役割分担の確認:
- 教科書に出てくる家庭の描写で、女性が常に家事、男性が常に仕事という役割分担になっていないか確認します。もし偏りが見られる場合は、「お家での役割は、家族みんなで分担できるんだよ」「色々な家族の形があるんだね」と補足したり、子どもたちに問いかけたりします。
- 実践例:
- 「このお父さんは料理が得意みたいだね。みんなのお家では誰が料理することが多いかな?」と、多様な家庭のあり方を考えるきっかけを作る。
- 職業や活動の描写:
- 「パイロットは男性、看護師は女性」といった固定的な描写になっていないか確認し、多様な職業には多様な性別の人がいることを伝えます。
- 実践例:
- 職業紹介の単元で、「女性の消防士さんや、男性の保育士さんもたくさん活躍しているんだよ」と、写真や動画で具体的な例を見せる。
2. 掲示物・教室環境のチェック:無意識のメッセージを見直す
教室の掲示物や装飾も、子どもたちに無意識のうちにメッセージを伝えています。
- 表現の配慮:
- 「がんばれ男の子!」「すてきな女の子」のような、性別で区別する表現は避けます。「みんながんばろう!」「一人ひとりが輝いているよ!」のように、全ての子どもたちを対象にした励ましの言葉を使います。
- 多様なロールモデルの紹介:
- 歴史上の人物、科学者、スポーツ選手、芸術家など、性別にとらわれずに活躍した人々の事例を、男女問わず積極的に紹介します。
- 実践例:
- 「今月の〇〇さん(男女問わず)の頑張り」など、頑張った点を具体的に評価する掲示を行う。
- 世界の偉人を紹介する際に、性別だけでなく、国籍や文化の多様性にも触れる。
3. おすすめの教材・図書:ジェンダー多様性を考える一冊
学級文庫や図書室に、ジェンダー多様性に関する絵本や児童書を積極的に取り入れましょう。
- 推薦図書例(学年・発達段階に応じて):
- 低学年向け: 『おつきさまってどんなあじ?』(ミヒャエル・グーレヴィッチ作)のように、協力することやそれぞれの役割の多様性を自然に学べる本。
- 中学年向け: 『わたしはわたし』(マー・ユーアン、チェン・ジュイ作)のように、個性を尊重し、他者との違いを受け入れることの大切さを描いた本。
- 高学年向け: 伝記やノンフィクションで、性別にとらわれずに夢を追いかけた人々の物語(例:女性初の飛行士、男性のバレエダンサーなど)。
- 活用方法:
- 読み聞かせの後に、「このお話に出てくる人たちは、どんな気持ちだったかな?」「みんなだったらどうする?」と問いかけ、意見を交換する時間を持つことで、子どもたちの多角的な視点を育みます。
同僚や保護者との連携をスムーズに
ジェンダーインクルーシブ教育は、教員一人だけでなく、学校全体、そして家庭との連携が不可欠です。
- 同僚との情報共有:
- 学年や教科の会議で、実践例や成功体験を共有し、疑問点や課題について話し合う場を設けます。「こんな時、どうしている?」と具体的な状況を共有することで、互いの理解と実践の質が高まります。
- 保護者への丁寧な説明:
- 保護者の方々が「ジェンダー教育」と聞いて、誤解や不安を抱くこともあるかもしれません。その際には、子どもたちの可能性を広げ、一人ひとりの個性を尊重するための教育であることを丁寧に説明することが大切です。
- 伝える際のポイント:
- 「『男の子だから』『女の子だから』といった決めつけにとらわれず、子どもたち自身が自分の興味や得意なことを見つけ、自由に選択できるようサポートしたいと考えています」と、教育の意図を明確に伝えます。
- 具体的な実践例(例:おもちゃの多様化、役割分担の促進)を挙げ、「子どもたちが自分らしく生きる力を育むことにつながります」と、子どもの成長への良い影響を伝えます。
実践Q&A:こんな時どうする?
Q1: 保護者から「なぜ性別のことをわざわざ教えるのか」と質問されたら?
A1: 「性別による決めつけが、お子様の将来の可能性を狭めてしまうことがあるため、小学校のうちから性別にとらわれずに物事を考え、自分らしく生きる力を育むことが大切だと考えています。特定の考え方を押し付けるのではなく、お子様一人ひとりの個性を尊重し、多様な選択肢があることを伝える教育です」と、子どもの成長と可能性の拡大という視点から説明しましょう。
Q2: 「男の子なのに人形遊びが好き」「女の子なのに戦隊ごっこが好き」という子に対し、他の子がからかってしまう場合は?
A2: まず、「好きなことでからかうのは良くないことだよ」と伝え、多様な興味や好きなことを肯定する姿勢を示します。その上で、「〇〇くんは人形遊びで、こんなお話を作っているんだよ」「〇〇ちゃんは戦隊ごっこで、こんな役割を工夫しているんだね」と、その子の興味の背景にある面白さや創造性を紹介し、他の子どもの理解を促します。性別にとらわれずに、一人ひとりの個性や好きなことを尊重するクラスの雰囲気作りが最も重要です。
まとめ
日々の「遊び」や「教材選び」のちょっとした工夫が、子どもたちがジェンダーにとらわれずに、自分らしく可能性を広げていくための大切な一歩となります。
- 遊びの時間は、多様な興味を引き出すチャンスです。おもちゃの配置や声かけ一つで、子どもたちの遊びは無限に広がります。
- 教材や教室環境は、無意識のメッセージを伝えます。既存の教材を多様な視点で読み解き、性別にとらわれない表現やロールモデルを積極的に取り入れましょう。
- 同僚や保護者との連携は、より良い教育環境を作る上で不可欠です。丁寧な対話を通じて、ジェンダーインクルーシブ教育への理解を深めていきましょう。
忙しい日々の中でも、今日からできる小さな実践から始めてみませんか。先生方の「ヒント箱」が、子どもたちの未来をより豊かにする一助となれば幸いです。