「男の子だから」「女の子だから」をなくす！小学校での言葉がけと役割分担のヒント
多忙な小学校教員の皆様、日々の教育活動お疲れ様です。「ジェンダー教育のヒント箱」では、皆様が授業にすぐに取り入れられるジェンダーインクルーシブ教育の具体的なアイデアと教材を提供しています。
この記事では、「男の子だから」「女の子だから」といった無意識の固定観念（ジェンダーバイアス）を減らし、子どもたち一人ひとりが自分らしく輝ける学級環境を作るための、言葉がけや役割分担に関する具体的なヒントをご紹介します。日々の授業や学級運営の中で、すぐに実践できるアイデアを多数掲載しておりますので、ぜひご活用ください。
導入：なぜ「男の子だから」「女の子だから」を見直すのか
小学校の子どもたちは、周囲の大人や社会の様々な情報から、無意識のうちに「男の子らしさ」「女の子らしさ」というイメージを形成していきます。しかし、これらの固定観念は、子どもたちの興味・関心や能力の可能性を狭めてしまうことがあります。
例えば、「男の子だから理科が得意」「女の子だからおとなしい」といった思い込みは、実際にその子が持っている多様な才能や個性を隠してしまうかもしれません。ジェンダーインクルーシブ教育とは、性別に関わらず、すべての子どもたちが自分らしく学び、成長できる環境を育むことです。教員が言葉がけや役割分担を意識的に見直すことで、子どもたちはより自由に、のびのびと個性を伸ばしていくことができるのです。
子どもたちにジェンダーの多様性を伝える際は、「男の子も女の子も、好きなことや得意なことはそれぞれ違うのが当たり前だよ」「大切なのは、あなたが何をしたいか、どう考えるかだよ」といった、一人ひとりの個性と選択を尊重するメッセージを繰り返し伝えることが重要です。
１．日常の言葉がけを変える具体的なヒント
私たちは日頃から、無意識のうちに性別を意識した言葉を使っていることがあります。少しの工夫で、性別にとらわれないフラットな言葉がけに変えることができます。
1-1. 呼びかけ方・指示の言葉を変える
学級全体への呼びかけや指示で、「男子」「女子」という言葉を避け、性別を特定しない表現を使うように意識しましょう。
- 「男子！女子！」 → 「みんな」「皆さん」「児童の皆さん」「子どもたち」
- 「男の子は〜」「女の子は〜」 → 「〜する人は」「〜したい人は」
- 「男性は〜、女性は〜」 → 「〇〇の役割の人は」「〇〇係の人は」（もし役割に男女差がある場合）
【学年別実践例】
- 低学年（1・2年生）:
- 「みんな、先生のお話を聞いてね」
- 「お手伝いしたい人、手を挙げてくれるかな？」
- 「お当番さんは、前に出てきてくださいね」
- 中学年（3・4年生）:
- 「今日の活動は、グループで協力して進めていきましょう」
- 「理科の実験で、〇〇の係の人は準備をお願いします」
- 「運動会に向けて、係の皆さんはそれぞれの役割を確認しましょう」
- 高学年（5・6年生）:
- 「委員会活動では、各自の役割を責任を持って果たしましょう」
- 「意見を発表したい人は、自由に発言してください」
- 「キャリア教育で、将来の夢について考えてみましょう。どんな仕事も、性別に関係なく目指せます」
1-2. 褒め方・励まし方を見直す
「男の子なのに優しいね」「女の子らしくて素敵だね」といった褒め方は、かえって性別の固定観念を強めてしまう可能性があります。その子の具体的な行動や内面、努力に焦点を当てて褒めるようにしましょう。
- 「男の子なのに力が強いね」 → 「よく頑張ったね、すごい力だ！」
- 「女の子らしい字だね」 → 「丁寧に書けていて、とても読みやすい字だね」
- 「男の子だから活発だね」 → 「元気いっぱいで、みんなを引っ張ってくれるね」
【ポイント】 * 具体的な行動を褒める: 「〇〇ができたね」「〇〇のところがとても良かったよ」 * 努力の過程を認める: 「諦めずに頑張ったね」「難しい問題にも挑戦してすごいね」 * 個性を尊重する: 「〇〇さんのそういうところが素敵だね」「〇〇さんらしい考え方で面白いね」
２．役割分担を見直す具体的なヒント
学級内の清掃当番、係活動、給食当番、授業での役割分担など、様々な場面で無意識の偏りがないか確認し、多様な経験ができる機会を提供しましょう。
2-1. 清掃・給食当番
「力仕事は男子が担当」「配膳は女子が担当」といった固定観念が残っている場合があります。性別に関わらず、様々な役割を経験できるように工夫しましょう。
- ランダムな割り当て: くじ引きや公平なローテーションで役割を決める。
- 役割の柔軟性: 力仕事が必要な場合は「手伝ってくれる人」を募るなど、性別でなく能力や意欲で参加者を募る。
- 「お互いを助け合う」視点: 「困っている人がいたら、性別に関わらず助け合おう」という声かけを徹底する。
【実践例】 * 「配膳は、みんなで協力して行いましょう。お盆を運ぶ係、お皿を配る係、それぞれ力を合わせてね」 * 「掃除の時間、机を運ぶのが大変な人は、周りの人に助けを求めてもいいんですよ」
2-2. 係活動・委員会活動
係活動や委員会活動においても、特定の性別に偏りがちな役割がないか確認し、多様な活動への参加を促します。
- 「掲示物作成は女子、イベント準備は男子」 → 「得意なことを生かして、自由に係を選んでみよう」
- 「放送委員は女子が多い」 → 「声の大きさやはっきり話すことが得意な人、挑戦してみませんか？」
【実践例】 * 係活動の説明時、「どんな係も、男の子も女の子も大歓迎です。自分のやってみたいことを大切に選んでくださいね」と明確に伝える。 * 各係の活動内容を具体的に示し、特定の性別がイメージされないよう工夫する。
2-3. 教科における役割
図工、家庭科、体育など、特定の教科で性別による得意・不得意のイメージが先行しないように意識しましょう。
- 家庭科: 「裁縫は女子だけのものではない」「調理実習は男子も楽しんでできる」と伝える。
- 図工: 「絵が得意なのは女子だけではない」「工作は男子だけではない」と伝える。
- 体育: 「運動は得意な人も苦手な人もいる。大切なのは協力すること」と伝える。
【実践例】 * 家庭科の授業で、「どんな人でも生活に必要なスキルです。みんなで楽しく学びましょう」と導入する。 * 図工の作品発表で、「この作品は、〇〇さんがどんな気持ちで作ったのかな？」「〇〇さんの工夫が素晴らしいね」と、性別ではなく作品そのものや制作過程に焦点を当てる。
３．保護者や同僚の理解を得るために
ジェンダーインクルーシブ教育は、時に保護者や同僚から疑問の声が上がることもあります。しかし、丁寧な説明と具体的な実践で理解を深めることができます。
3-1. 保護者への説明
- 説明会や学級通信で明確に伝える: 「一人ひとりの個性と多様性を尊重し、その子の可能性を最大限に引き出す教育を目指しています」という学校や学級の方針を伝える。
- 具体的な事例を共有: 「子どもたちが性別にとらわれず、様々な活動に意欲的に取り組んでいます」といったポジティブな事例を共有し、理解を深めてもらう。
- 質問に丁寧に答える: 「男の子なのにスカートをはく子がいるのはどうしてですか？」といった質問に対しては、「自分の好きな服装を選ぶ自由があり、それはその子の個性の一つです」と、多様性を尊重する姿勢を伝える。
3-2. 同僚との連携
- 情報共有と意見交換: 学年会議や職員会議で、ジェンダーインクルーシブ教育に関する情報や実践例を共有し、意見交換の場を設ける。
- 共通理解の醸成: 学校全体でジェンダー教育の重要性について共通認識を持つことで、教員間の連携がスムーズになり、一貫した教育を提供できます。
- 具体的な教材や活動の共有: 実際に効果があった言葉がけや活動案を共有し、他の教員が実践しやすい環境を作る。
４．よくある疑問と回答
Q1: あまり気にしすぎると、かえって子どもが性別を意識してしまうのでは？
A1: 大切なのは「男の子」「女の子」を意識させないことではなく、性別で役割や可能性を決めつけないというメッセージを伝えることです。過剰に反応するのではなく、自然な言葉がけや機会の提供を通じて、無意識の偏りをなくすことを目指します。子どもたちが「こうあるべき」という枠にとらわれず、自由に選択できる環境を育むことが目的です。
Q2: 保護者から「うちの子は男の子/女の子だから、〇〇させたくない」と言われたら？
A2: まずは保護者の不安や考えを丁寧に傾聴しましょう。その上で、「当学級では、一人ひとりの個性や興味を尊重し、性別に関わらず様々な経験を通じて可能性を広げる教育を大切にしています」という教育的視点と学級の目標を伝えます。具体的な活動内容を説明し、お子さんの成長にどのような良い影響があるのかを具体的に示すことで、理解を求めることが重要です。
まとめ：小さな一歩が未来を拓く
「男の子だから」「女の子だから」という無意識のバイアスを見直し、言葉がけや役割分担に工夫を凝らすことは、子どもたち一人ひとりの個性を尊重し、多様性を育む上で非常に重要な一歩です。今日からでも実践できる小さなヒントが、子どもたちの大きな可能性を開くことにつながります。
この記事で紹介したアイデアが、皆様の教育活動の一助となれば幸いです。ぜひ、学級でこれらのヒントを試してみて、子どもたちの生き生きとした変化を感じてみてください。そして、その経験を同僚の先生方とも共有し、学校全体でジェンダーインクルーシブな環境を育んでいきましょう。